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民事再生④(温泉旅館事業の継続を前提とした鑑定評価)

今回から、温泉旅館事業の継続を前提とした処分価格の鑑定評価について、過去の案件に基づき説明していきたいと思います。

本件は、「自用の建物及びその敷地」の鑑定評価であり、本件で求めるべき価格は、早期売却を前提とした特定価格である。

本件鑑定評価に当たっては、早期売却市場減価の手法(対象不動産の正常価格を求め、正常価格に早期売却市場で成立する価格であることによる減価の修正を行って求める手法)による価格と、早期売却市場を前提としたDCF法による収益価格を関連づけて鑑定評価額(特定価格)を決定することとする。

1.早期売却市場減価の手法による価格

­(1) 正常価格­

 本項評価に当たっては、積算価格をもって正常価格とすることとし、積算価格を求めるに当たっては、対象不動産の概況に基づき、土地については取引事例比較法を、建物については原価法を適用して評価を行った。

 ※上記正常価格について

本件は、民事再生法に基づく評価目的の条件下において、対象不動産の早期売却を前提とした価格を求めるものであり、求めるべき価格は特定価格であるが、早期売却市場減価修正前の積算価格をもって、本件対象不動産の正常価格と見做している。

(2) 早期売却市場減価の手法による価格

 前記(1)で求められた正常価格に早期売却市場で成立する価格であることによる減価の修正を行い、本項試算価格を下記の通り求めた。

(注)早期売却市場減価

早期売却市場は、短期に転売して利益を得ることを目的とした市場参入者を主体とする卸売市場的な性格を実態として有していることから、競売市場を早期売却市場に準じた市場として考慮し、当該地域の競売市場修正率を基準として、対象不動産がリスクの高い事業用資産であること等を考量してx%と査定した。

2.温泉旅館事業を前提としたDCF法による収益価格について

(1) DCF法について

 DCF法とは、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格をその発生時期に応じて現存価値に割り引き、それぞれ合計して収益価格を求める手法である。

 本件におけるDCF法の適用に当たっては、対象不動産が現在稼働中の旅館であることに鑑み、売上高から売上原価等を控除して算定した純収益を割引率、最終還元利回りを用いて、DCF法による収益価格を求めることとする。

(2) 売上高、売上原価、経費について

 価格時点以前の直近3年間の損益計算書を分析し、価格時点以降5年間の推移を想定する。

(3) 割引率、最終還元利回りについて

 10年国債流通利回りの過去3年間の平均値を基準に、旅館業としてのリスクと高級建物としての将来性等を考量して、早期売却市場の割引率及び最終還元利回りを12%と査定した。

(4) DCF法による収益価格

 対象不動産を購入後5年間旅館事業を運営し、6年目に転売することを想定し、5年間の純収益の現価の総和に6年目の転売価格の現価を加算することにより、対象不動産の収益価格を評定した。

3.鑑定評価額の決定

以上により

1.早期売却市場減価の手法による価格

2.DCF法の収益価格

と二試算価格が概ね均衡して得られた。

対象不動産は、温泉旅館「…」の旅館本体の建物及びその敷地であり、旅館事業の継続を前提とするDCF法による収益価格を標準とすべきであるが、将来的には、別の利用方法も考えられる高級建物である。

従って、本件鑑定評価額の決定に当たっては、上記諸点を総合的に考慮し、DCF法による収益価格を標準とし、早期売却市場減価の手法による価格を比較考量して、鑑定評価額をX円と決定した。

上記民事再生に係る鑑定評価は、今から約12年前の伊東市の案件ですが、次回には、その当時の状況、鑑定評価に当たって留意した点、悩んだ点等を説明したいと思います。

-日本アプレイザル㈱-