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民事再生⑤(温泉旅館事業の継続を前提とした鑑定評価)

今から約12年前の平成17年頃、伊東市の温泉旅館の案件について、鑑定評価の骨子は前回「民事再生④」で説明しましたが、今回は、その当時の状況、鑑定評価に当たって留意した点等について説明したいと思います。

1.伊東市の観光業の今後について

平成3年をピークに観光客数の減少傾向が続き、宿泊者が観光客数に占める割合も低下傾向にあり、更に宿泊客は低廉な宿泊料金の施設に集中する等、市の基幹産業である観光業にとって厳しい状況が続いている。

又、伊東市は、伊豆東部火山群(伊豆半島東部に密集する火山及びこれらの東方海域に密集する海底火山)の地域に入り、この地域では過去度々地震が群発し、平成元年には伊東湾で有史以来初めての海底噴火が起こっている。その後も群発地震は断続的に続いているが、ここ数年は特に大きな地震は起こっていない。しかし、群発地震がいつ活発化するか予測はつかないため、観光業にとっての不安要因の一つとなっている。

一方、一般的要因としては、国内の景気は回復傾向が続いており、企業収益の改善、個人所得の増加等がみられ、個人消費は持ち直している。具体的には二極化(良い悪いが混在)の中での景気回復である。

  (1)  再生債務者(スポンサー)側の意見

 未だ、景気は回復状況になく、伊東市の観光業も回復状況にない。

  (2)  評価側の判断

 伊東市の観光業について展望すると、二極化の中での景気回復であるが、東京圏から近いという立地条件等から、二極化という前提条件の中で回復傾向に進むと思料される。

2.建物の状況について

平成7年頃、大規模な増改築がなされた高級温泉旅館であり、群発地震、他の低廉な宿泊料金施設の影響等を受け、収支が悪化し、大規模増改築費用が経営を圧迫し、民事再生手続きとなりました。

特徴のある設備として、屋外の温泉プール(20m×7.5m.水深1~1.2m)が設置されている。

 (1) 再生債務者(スポンサー)側の説明

 屋外の温泉プールの費用がかさみ、収支を圧迫している。温泉プールを無くすことも検討している。

 (2) 評価側の判断

 再生債務者(スポンサー)側の説明を自ら確認するため、更に2回程現場調査に行き、実際に温泉プールで2回程泳ぎました。

 その際、泳いでいた親子や若い女性等にプールについて聞いてみると、「このプールは最高」「温泉プールがあるから泊まりに来ました」等、宿泊者の温泉プールへの評価が高いことが分かりました。

 従って、経費がかかっても、温泉プールを特徴とする旅館として再生すべきであると判断しました。

3.DCF法による収益価格について

(1) 損益計算書について

 価格時点以前の3期分の損益計算書を分析し、価格時点以降の収支を検討しました。

 (2) キャッシュフロー表について

 DCF法では、一般的には、購入後10年間事業を運営し、11年目に転売することを想定しています。

 本件は、民事再生手続きにおける早期売却を前提とした価格を求めるものであり、購入後5年間旅館事業を運営し、6年目に転売することを想定しました。

4.鑑定評価額の決定について

早期売却市場減価の手法による価格及びDCF法の収益価格の二試算価格は概ね均衡して得られたが、いずれも再生債務者(スポンサー)側が提示する担保権消滅価格を大幅に上回って求められました。

(評価側の判断)

前記1(2)記載の通り、今後回復傾向に進むと推測し、更に将来的にはコンバージョンマンションとしての売却も可能であると判断し、鑑定評価額を決定しました。

なお、其の後、平成17年9月の郵政民営化解散総選挙を機に不動産価格は上向きとなっていきました。

5.その他

翌年の平成18年1月、茂木健一郎さん、住吉美紀さんによる番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見た時、ゲストとして当該旅館再生のコンサルタントを担当されている方が出演し、当該旅館再生の現状を説明されていました。具体的には、源泉プールとしての特徴を生かして再生されていることを聞き、現場に3回行きその内2回温泉プールで泳いで判断した結果は正しかったんだなと思いました。

-日本アプレイザル㈱-