虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業
常日頃より、仕事関連のほか初動負荷トレーニング等により、縁があり親しみのある麻布台で再開発事業が進捗してきているので、その内容をまとめてみました。
1.都心部の不動産市場
都心部の不動産市場は、平成2年の東京証券市場株価大暴落を機とするバブル崩壊後は長らく低迷が続いたが、平成16年頃から回復傾向に入り、其の後は景気の回復及び不動産の証券化、郵政民営化等の経済政策を反映して需要は強含みに推移し、特にサブプライムローン問題の発覚する平成19年夏前迄は加熱気味の状況を示していた。
平成19年夏前にサブプライムローン問題が発覚し、7月下旬から8月にかけての世界同時株安、流動性不安等により、我が国の不動産市場でも不透明感が生じ、需要は様子見の気配を示しながら徐々に下落傾向となっていたが、更に平成20年9月のアメリカ・欧州における金融危機の深刻化(いわゆるリーマンショック)により不動産市場は非常に厳しい状況となった。其の後、平成22年頃から一部(都心部)回復傾向にあったが、平成23年3月11日の東日本大震災(特に原発問題)の影響、欧州危機等から再び不透明な状況に入った。
其の後、平成24年夏以降において、海外投資家がJ-REIT市場において買い越しに転じる等、日本市場への投資が増大する中で、平成24年12月の政権交代による経済政策の変更、更に平成25年9月の東京オリンピックの決定(2020年)等を反映して、地価は回復~強含み傾向にあったが、平成27年後半からの金融政策にやや不透明感が生じており、慎重姿勢も見受けられると思料される。
2.港区の概況
港区は、東京都23区の中央やや南寄りに位置し、平成30年3月1日現在、面積約20.34㎢、人口254,561人、世帯数144,378世帯となっている。区の人口は、昭和50年代後半から住宅地の商業地化により減少したが、平成10年以降は居住の都心回帰や湾岸部のマンション開発等のため人口・世帯数ともに増加に転じ、現在も増加傾向が続いている。
当区は、昭和22年に旧「芝・麻布・赤坂」の3区が合併して発足し、地勢は、概ね北東側の海岸低地(新橋、虎ノ門、芝等)、南東側の湾岸部埋立地(芝浦、港南、台場等)、西側の高台地(麻布、六本木、赤坂、青山、高輪、白金等)とから成っている。海岸低地は旧来から商業・業務利用が多く、湾岸埋立地は倉庫等の利用が多かったが、近年は高層・超高層マンションへの転用例が増えている。又、高台地は戦前からの高級住宅地が多く、近年はマンション化が進んでいる。
商業施設は、JR新橋・浜松町・田町・品川の各駅周辺、赤坂・青山・六本木の地下鉄駅周辺を中心に集積しており、新橋・虎ノ門はオフィスビルが高密度に集積し、青山・六本木の商業地域はファッション関係の店舗が多く、赤坂の商業地は旧くからの歓楽街となっている。
当区には、近年「汐留シオサイト」、「六本木ヒルズ」、「東京ミッドタウン」、「赤坂サカス」、「虎ノ門ヒルズ」等の巨大開発が集中してきている。
最近では、対象不動産に近い六本木3丁目2番街区に、施行区域約2.7ヘクタールにオフィス棟(地上43階地下2階)、レジデンス棟(地上27階地下2階)、商業棟(地上3階地下2階)の3棟の施設から構成される総延床面積約21万㎡の「住友不動産六本木グランドタワー」が平成28年10月に完成し、オープンしている(レジデンス棟は同年3月竣工、4月入居開始)。又、赤坂1丁目でも施行区域約2.5ヘクタールの再開発事業「赤坂インターシティAIR」(地上38階地下3階.延床面積約178,330㎡)が平成29年8月に竣工し、同年9月にオープンしている。
更に現在も、虎ノ門地区等で複数の再開発事業が進行、又は計画中であり、対象不動産の存する麻布台地区でも施行区域8.1ヘクタールの巨大開発が計画されている(後記(6)行政的条件参照)。
3.虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業について(下記計画概要参照)
虎ノ門5丁目、麻布台1丁目、六本木3丁目にまたがり、桜田通り、麻布通り、外苑東通りに面する広大な区域(区域面積約8.1ha)に計画されている。
当該区域は、神谷町駅、六本木一丁目駅に近接する等、交通利便性を有するとともに、周辺には外資系企業や大使館が立地するなど、国際性豊かな地域であることから、国家戦略特別区域に関する区域方針では、「2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックも視野に、世界で一番ビジネスのしやすい環境を整備することにより、世界から資金・人材・企業等を集める国際的ビジネス拠点を形成する」ことが示されており、都市再生特別措置法に基づく整備計画においても、「街区再編や大規模な土地利用転換など、今後見込まれる複数の都市開発の推進により、業務、商業、住宅、医療、教育、宿泊、文化機能を備えた外国人にとっても暮らしやすい生活環境を整備するとともに、国内外の企業や人々の交流、新たなビジネスの創出・企業の集積を推進し、国際的なビジネス・交流拠点と誰もが住み続けられる生活都心の形成を図る」ことが示されている。
区域は、A街区、B-1街区、B-2街区、C-1街区、C-2街区、C-3街区、C-4街区に区分され、対象不動産はB-1街区に所在する。A街区には地上65階地下5階事務所等(上層階は住宅.延床面積約449,000㎡)、B-1街区には地上63階地下4階住宅等(延床面積約170,500㎡)、B-2街区には地上53階地下5階住宅等(延床面積約155,500㎡)、C-1街区には地上3階地下2階店舗等(延床面積約11,100㎡)、C-2街区には地上8階地下3階店舗・事務所・住宅等(延床面積約28,400㎡)、C-3街区には地上3階地下1階店舗等(延床面積約1,800㎡)、C-4街区には地上3階地下2階寺院等(延床面積約3,300㎡)等の建設が計画され、延床面積の合計は約819,600㎡となる。着工は2018年度、竣工は2022年度の予定であり、予定通りに建設が進めば、A街区のビル(高さ約330m)は一時的に日本一の超高層ビルとなる。
用途地域は、第2種住居地域、第2種中高層住居専用地域、商業地域に指定されており、指定容積率は、600%、500%、400%、300%であり、加重平均すると全体では約350%になるが、今回の計画で容積率の最高限度は、対象不動産の存するB-1街区は1,210%となり、全体では990%になる。
又、上記「外国人にとっても暮らしやすい生活環境の整備」のため、国際教育施設(インターナショナルスクール、多言語対応可能な子育て支援施設等)、外国人の生活支援・交流施設(多言語対応の医療施設・スーパーマーケット等)、大型住宅(最大専用面積約1,000㎡)、中短期の滞在ニーズに対応したサービスアパートメント等の整備が計画されている。
公共施設としては、幹線道路を結ぶ南北・東西方向の道路(幅員12m)の整備、外苑東通りの拡幅整備、地区内車路(幅員7m)の整備が計画され、地下鉄神谷町駅と六本木一丁目駅を結ぶ歩行者通路(地下)の整備も計画されている。更に、対象不動産が接面する麻布通りの側道部分(行合坂)を嵩上げして歩道化(幅員約5m)し、歩道状空地(幅員約2m)と一体で歩行者空間の拡充を図るとしている。
他には、区立公園(約770㎡)、大規模広場(約6,000㎡以上)、斜面緑地の保全整備(約600㎡)等により地区全体で約19,700㎡の緑化空間を整備する計画である。又、自立・分散型エネルギーシステムの導入、災害時の帰宅困難者受入れ施設や防災備蓄倉庫の整備、住宅等の雑排水を活用して1日最大約400トンの上下水道の負荷低減を図る等の計画があり、更に下水熱利用システムを計画地内の冷暖房等に活用することも検討されている。
-日本アプレイザル株式会社-